布施商店街のざわめきから、ふと一本裏へ。
赤い鳥居が連なる通りの先に、ぽつんと佇む古民家がある。
看板には「bloom」の文字。
ふだん使いのコーヒーと、身体にすっとなじむ米粉スイーツ。
派手さはないけれど、静かに染み入る居心地のよさがある。
カフェに魅せられ、名古屋で文化に触れ、大阪で夢を形にした店主が、一人で切り盛りするこの場所には、誰かの「ふぅ」の瞬間が、ちゃんと息づいている。
住所 | 大阪府東大阪市足代1-1-13GoogleMap |
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電話番号 | 050-3637-0901 |
営業時間 | 9:00~17:00(金のみ/11:30~17:00) |
定休日 | 水曜日・木曜日 |
喫煙可否 | 禁煙 |
あの赤い鳥居をくぐると
布施駅から西へ、たったの3分。だけど、町の空気が少しずつ変わっていくのがわかる。商店街の喧騒を背に、浅草観音通りへ足を踏み入れると、等間隔に並ぶ赤い鳥居と、古い家屋の面影がちらほらと。
その中に、気負いなく、でもちゃんと美しく手入れされた古民家がひとつ。「bloom curry and coffee」の看板が、控えめに出迎えてくれる。
最初は、ちょっと躊躇するかもしれない。ふつうの家みたいだし、中の様子もよく見えない。でも、大きなアイアン格子の窓から、笑い声とコーヒーの香りがふわっと届いたら、自然とドアを開けてしまっている。
スイーツも、想いも、米粉100%
右手のショーケースには、ふわっと焼き上がったスイーツたちが4種類ほど。よく見ると、どれもグルテンフリー。使っているのは、店主の実家・八尾から届く米粉だ。
キャロットケーキやワッフルも、米粉だけでつくっている。小麦よりもカロリーが控えめで、栄養価も高い。けれどその情報よりも驚くのは、食べた瞬間のしっとり感。ほろっと崩れて、口の中にじんわり広がるやさしい甘さ。
「米粉って、こんなにおいしかったっけ」
そんな気づきをくれる、さりげなくて丁寧なお菓子たち。
その一杯は、会話のように
甘いものには、やっぱりコーヒーを。ここでは、注文が入ってから一杯ずつハンドドリップで淹れてくれる。急ぎの用には向かないけど、そのぶん香りは立ちのぼり、待ち時間さえも“味”になる。
使っている豆は、知人の焙煎所から仕入れたもの。そのつながりもまた、どこかカフェらしい。
もうひとつの人気は、自家製ジンジャーエール。スパイスを煮詰めてつくるシロップに、ほんのりと辛みのある生姜と唐辛子。シナモン、カルダモン、クローブ。スパイスカレーと一緒に飲めば、午後の身体にすっと熱が灯る
アパレルとカフェ、ふたつの居場所
店主のあすかさんは、元アパレル勤務。勤務地だった岐阜で出会った名古屋発祥のカフェ文化に、どっぷりハマったという。
仕事帰りや休日、特別な用もないままカフェに入って、ただぼーっと過ごす時間が、思いのほか心地よかった。そんな経験が、店の原点になっている。
「自分にとって、そういう場所が必要だったから。今度は、自分が誰かにとっての“居場所”をつくれたらいいなって」
コロナ禍に会社を辞め、半年の修行を経て、実家のある大阪で独立。お店は、最初に内見したその日に「ここしかない」と即決したそうだ。
アイアン窓と縁側と
古民家を改装した店内には、アンティークの家具が並ぶ。おばあちゃんの家のようでもあり、ヨーロッパの小さなカフェのようでもある。
そして、譲れなかったというアイアン格子の大きな窓。光がたっぷり入るその窓は、店の空気をやわらかくしてくれる。外からも中が見えるので、初めての人でも構えすぎずに入れるのがうれしい。
スピードや効率が優先されがちな今だけど、ここではその真逆。
ひとつずつ丁寧に淹れられるコーヒーと、窓の外の縁側越しに流れる時間。それだけで、なんだか救われるような気がしてくる。
誰にとっても「ただいま」が言える場所に
布施商店街という、どこか懐かしいこの町に、こうして一軒の“今”が根を下ろしている。日常のなかの「ふぅ」とした時間。誰かとでも、一人でも、ぼんやりできる場所。
「特別なものはないけど、落ち着くんです」
お客さんのそんなひとことが、この店の魅力を一番よく言い表しているかもしれない。