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My ORDINARY vol.8 〜恥ずかしがり屋の七味屋さん〜
N2のドアをあけてすぐ斜め右前、人が行き交う商店街の路上の端にちょこんと並ぶ机と石油ストーブ。
筆で書かれた、“布施名物 味自慢 七味唐がらし”の文字。
「おはようございます~」「今日もおはようさん」
そこのイスに座っている七味屋さんの店主のおばあちゃん(恥ずかしがり屋なため、名前は伏せたいらしい)に挨拶をして、私の一日は始まります。
SEKAI HOTELのインターン生としてこの商店街に通いはじめて約2カ月、ほぼ毎日あいさつを交わしています。気付いたら10分もおしゃべりをしていた! なんてことも日常茶飯事で、お会いできない日はなんとなくそわそわしてしまうほどです。
雨の日に傘がなくて困っていると「これ持っていき~」といって傘を渡してくたり、ご飯がおいしいお店を教えてくれたりと、まるで子どもの時から知っているおばあちゃんのようなあたたかい存在です。
話しかけに行くのは私の方なのに
「時間取ってごめんな。はい、いってらっしゃい。がんばってね。」
といつも遠慮がちに送り出してくれます。
おっとりしていて恥ずかしがり屋
謙虚だけど、やっぱりおしゃべりが大好きで、目が合うとにこっと微笑んでくれる
布施というまちについて知らないことをたくさん教えてくれる、このまちの大先輩です。
そんなおばあちゃんですが、看板に残っているとおり子供服店やたこやき屋を経て、現在はおひとりで七味屋さんとして商売をされています。
そんなお店は70年ものあいだ、続いています。
ここでは注文をすると、ケシの実やゴマなど何種類かのスパイスをその場ですぐに調合してくれます。好みに合わせて辛さや香味をおばあちゃんが調整してくれるので、自分に合った “MY七味” を作ることができるのです。
シンプルな手法ながらも、長年の経験から培われた絶妙な塩梅で作られるこの七味を求めて、多くの常連さんが通います。
お客さんが来れば普段の控えめな姿とは一変、別人のようにスイッチが入り、言葉巧みにお客さんを楽しませ、手際よくすり鉢で七味を調合する姿はまさに商人そのもの。
若いころから商人としてお仕事を一生懸命されてきたんだなぁと感じられる瞬間です。
さらにびっくりしたのは、すり鉢で混ぜ合わせた時にふわっと広がるスパイスの華やかな香り。
昔ながらの手法で丁寧に調合される七味の香りは、機械化されて大量生産されたものからは感じることはできません。
このまちに来て初めて、七味屋さんのようにイチから丁寧にモノづくりをしているお店に立ち寄ることが増えました。
スーパーやコンビニの棚に綺麗に並べられているような食べ物も十分に美味しく、コスパもよくて、便利な時代になっていっていると感じます。
だけど実際に作っている人の顔を見たり世間話をしたりして、モノの背景を知ってから買う方がずっと美味しいと感じるようになりました。
なによりも、人間の手や感覚でしかつくることのできないもの、出せない味というものは少なくなってきてしまっているけれど、これからも大事にしていきたいと思うようになったことは、私にとっての大きな変化です。
「めっちゃいい香りですね! 七味ってこんな香りがするんだ~」と言うと
「せやろ。市販のやつなんかとは全然違うねん。」
と、ニヤっとしているおばあちゃん。
その自慢げな顔を見て、何歳になっても誇りをもってお仕事をしている人はかっこいい、自分もそうなりたい、と思いました。
お客さんが帰ったあとはいつもの慎ましいおばあちゃんに元通り。
「あ、お仕事あるやろ、引き止めてごめんな。いってらっしゃい。」
いつも通りのニッコリ笑顔と「いってらっしゃい」に安心しながら、またもや立ち話をしてしまったことに気付き、いつもの道を足早に向かいます。
Written by Riko Kenmotsu