東大阪・布施の駅前に、ひときわ目を引く看板の寿司屋がある。
名前は「廻る元禄寿司」。
1958年の創業から、ずっと町と一緒にまわりつづけている。
レーンの上に乗るのは、シャリとネタだけじゃない。
人の工夫とか、遊び心とか、食べる人を想う気持ちとか。
はじめて来たのに、なんだかちょっと懐かしい。
そんな寿司屋のカウンターで、今日も誰かが「ごちそうさま」と手を合わせている。
住所 | 大阪府東大阪市足代1-12-1GoogleMap |
---|---|
電話番号 | 06-6727-8246 |
営業時間 | 平日 11:15~22:30 土・日・祝 10:45~22:45 |
喫煙可否 | 禁煙 |
ヒントは、ビール工場に
「なんとかならんもんかなあ」
人手不足に悩んでいた元禄寿司の先代社長が、ふと見学に行ったビール工場。ベルトコンベアに乗って流れてくる瓶たちを見て、思いついたのが“まわる寿司”。
寿司はカウンター越しに手渡すもん、という常識に、ぐるぐると風穴を開けた。
高度成長期まっただなかの1950年代。立ち食い寿司屋だった元禄寿司には、町工場の職人や学生が行列をつくっていた。人手が足りない。でも、お寿司をもっと多くの人に食べてもらいたい。そんなジレンマのなかで生まれた、まわる台。
名前は「コンベア旋回式食事台」。なんとも無骨で頼もしい。
それから約70年。
今じゃ全国津々浦々、誰もが一度は目にしたことがある回転寿司。その原点が、ここ東大阪にあるのだ。
定番から、ちょっと変わりダネまで
赤身のマグロ、トロサーモン、玉子焼き。おなじみの顔ぶれに混じって、ちょっと変わった軍艦もちらほら。
「なめ茸うずら」は、常連さんに人気の一品。
うずらの卵がぽとんと真ん中に座って、そのまわりをなめ茸がふわりと囲む。塩味と甘さのバランスが、絶妙。ひと口で、やみつきになる人も多いとか。
もうひとつ、名前だけで食欲をそそる「ぷりぷり海老マヨ」。
文字通りぷりっぷりの海老が、自家製の甘めソースにくるまれて、しっかり主役を張っている。大人も子どもも、ついもう一皿、と手が伸びてしまうやつ。
まわってくるお寿司をながめながら、「次はどれにしようか」と考えるのも、この店の楽しみのひとつ。
カウンターで、ひとりの昼ごはん
元禄寿司の店内は、大小ふたつのレーンを囲む全カウンター席。
一人客が多いのも、この店の特徴だ。
無言で皿を取って、ひとくち、ふたくち。食べ終えたら「ごちそうさん」と立ち上がる。そんな姿が、なんだかかっこいい。
もちろん、友人や家族と並んで食べるのも悪くない。
目の前で寿司を握ってくれる職人がいたり、注文するとレーンを通さず手渡してくれるその距離感も、お手頃な価格なのにちょっと特別だ。
昼下がりの店内。
お茶をすする音と、皿を取る手の動き。
それぞれのペースで、お寿司を楽しんでいる空気が、なんとも心地いい。
「回る」だけじゃない。ずっと変わらないもの
一皿143円。
回転寿司というスタイルが、いまや当たり前になった今も、元禄寿司はそのままの想いで店を続けている。
安くて、早くて、でもちゃんと美味しくて。
そんなお寿司を、誰もが気軽に楽しめる場所。
何度も来ているであろうおっちゃん、買い物帰りの母娘。みんなにとっての“ふつうにいい時間”が、ここにはある。
回転寿司は、たしかに発明だった。
でも、それ以上に、これは「やさしさの仕組み」だったのかもしれない。
あの時のアイデアが、今もレーンの上をくるくる回っている。