布施駅の改札を抜けてすぐ。
朝の商店街を歩いていくと、焼き菓子の甘い香りが鼻先をくすぐる。
その先にあるのが「和洋菓子 モモヤ」。70年近く、布施の日常と一緒に時間を刻んできたお菓子屋だ。手のひらをすっぽり覆う栗まんじゅう「大栗」。そして、お昼前には売り切れてしまうという「みっくすじゅーす大福」。大阪の喫茶店文化が、ここではもちに包まれていた。どこか懐かしくて、新しい。そんな布施の「おやつ」の話。
商店街の入り口で、70年。
布施駅を出て、正面。来訪者を迎え入れているのがここ、「和洋菓子 モモヤ」。創業は1953年。商店街の入り口にあたるこの場所に、ずっと変わらず佇んでいる。
老舗と聞くと、構えてしまいそうになるけれど、モモヤにはそんな気配がない。
ショーケースには名物のフルーツ大福が並び、通りを歩く人たちが何気なくのぞいていく。
季節の和菓子から、洋の焼き菓子、ラムネやおせんべいまで。
“和洋菓子”という肩書きのとおり、ジャンルにとらわれない菓子たちが、棚を賑やかに彩っている。
ミックスジュースは、飲まずに食べる時代。
そんなモモヤの中でも、ちょっと気になる名前がある。
「みっくすじゅーす大福」。文字にするとなんだか、ふざけてるみたいに見えるかもしれないけど、布施では本気で愛されている名物だ。
口に含むと、まずはお餅のやさしい歯切れ。そのあとすぐ、ひんやりとしたミルクあんと、生クリーム。
そして、パイン、オレンジ、バナナ——。
飲み物のミックスジュースとは違って、それぞれのフルーツはちゃんと姿を残している。
だけど、ひと口、ふた口と噛み進めていくうちに、気づけば口の中が“あの味”になっている。
喫茶店で飲む、あの大阪のミックスジュースの味。
混ぜずに、混ざる。
それぞれの果物の個性が、口の中でゆっくりと重なっていくような、不思議な感覚。
社長の「大好きなミックスジュースを、お菓子で表現できないか」という想いから生まれたというこの大福。
遊び心とこだわりのちょうどいいバランスが、このお店らしい。
栗まんじゅうは、もはや両手サイズ。
そして、もうひとつ。こちらもただの栗まんじゅうじゃない。
名前は「大栗(おおぐり)」。その名の通り、手のひらからはみ出す大きさ。
中には、栗の甘露煮が3~4粒、どっしりと入っている。
しっとりした生地とあんに包まれていて、その重みは、菓子というより小さな贈り物のよう。
「大栗」はモモヤの創業期から続く看板商品。
いまは“通常サイズ”の「小栗」もあるけれど、地元の人たちの中には「やっぱり、これじゃないと」と言って、大栗を選ぶ人も多いらしい。
休日のおやつにもいいし、遠方からの人にはお土産にも喜ばれそう。
包みを開けると、しばし時間が止まったような気分になる。それも、またいい。
季節とともに、味も変わる。
モモヤは、定番だけじゃ終わらない。
春には「柏餅パイ」。夏には「氷くずもち」。
どの季節にも、新しい“おいしい”がちゃんと用意されている。
氷くずもちは、ぷるぷるとした透明感が涼しげで、食べるときの音まで軽やか。
ひとつひとつの菓子に、愛着と遊び心が込められているのが伝わってくる。
売り切れてしまう商品も多いから、訪れるなら午前中が狙い目。
あれもこれもと目移りしているうちに、ふと店内の空気が、ちょっと懐かしいような温度に包まれていることに気づく。
菓子のかたちをした、記憶のかけら。
モモヤのお菓子には、“ちょっと変わってる”が詰まっている。
でもそれは、ただ奇をてらっているのではなくて、
毎日をちょっと楽しくしたい、そんな気持ちから生まれているのかもしれない。
ミックスジュースを、飲むんじゃなくて、食べるという提案。
栗まんじゅうが、両手サイズでいいじゃないかというノリとサービス精神。
そのどれもが、布施の町に寄り添うように、そっと並べられている。
「和洋菓子 モモヤ」は、観光雑誌に載るような有名店舗じゃない。だけど、旅先で出会うと、なんだか忘れられなくなる場所かもしれない。
できれば小腹をすかせた午前中に。できれば、予定なんて詰めすぎずに。
そんなふうにして、ふらっと立ち寄ってみるのが、ちょうどいいと思う。