東大阪の高井田という町に、ちょっとクセのあるラーメンがある。名前は「高井田系ラーメン」。
濃い醤油味に、極太のストレート麺。中華そばのようで、でもどこか違う、町の空気をまとった味。
工場地帯で働く人たちの腹を支えながら、朝から湯気を上げているその一杯は、大阪唯一のご当地ラーメンとも言われている。
変わらない製法を守る店主と、常連たちの習慣、そしてお持ち帰り文化。街とラーメンの物語を、少し覗いてきた。
高井田という町で、生き続けるラーメンがある。
大阪には“ご当地ラーメン”がない。そう思っていた。
でも、高井田に来れば、その認識はちょっと揺らぐ。
「高井田系ラーメン」。
そう呼ばれるこのラーメンは、極太のストレート麺に、鶏ガラと昆布をきかせたキレのある濃口醤油スープが特徴。ラーメンというより、「中華そば」と言いたくなるような、懐かしさと無骨さが同居している。
『中華そば 住吉』。ここが、原点。
「元祖・高井田系ラーメン」と名乗る『中華そば 住吉』。のれんをくぐると、カウンター8席だけの小さな空間に、常連たちの背中が静かに並んでいる。
定番の中華そば(700円)を注文すると、まず目を奪われるのは、そのうどんのような極太麺。歯ごたえがしっかりあって、啜るというより“噛む”ラーメンだ。
スープに染みる、記憶の味。
鶏ガラと昆布の出汁に、マルキン醤油のかえしを加えたスープは、はじめ少し酸味を感じる。でも、それがいい。じわじわとクセになる味。
チャーシューは脂少なめの肩ロース。ザクっと切られたネギがその上にのる。このシンプルな構成が、潔くて心地いい。
「変えません」と言い切ることの強さ。
現店主の稲住さんは、創業者である祖父母から味を一切変えずに受け継いでいるという。麺、スープ、具材、仕入れ先にいたるまで、まるごとそのまま。
「新しいことはしません」という言葉に、軽さはない。これは、時間と手間をかけて守られてきた町の味。変わらないということの強さが、ここにはある。
工員の腹を満たす、朝のラーメン。
高井田系ラーメンが“濃い”のには、理由がある。昔からこのあたりは工場の町で、汗をかく仕事が多かった。だから、塩分が欲しくなる。
「お客さんのリクエストで、どんどん濃くなっていった」という噂もある。味が育ってきたラーメン。いい話だ。
「朝ラー」という生活。
住吉の開店時間は朝8時。ラーメンにしては、かなり早い。これは夜勤明けの工員さんたちのためだった。
「おはようラーメン」とも呼ばれる朝の一杯。湯気とともに立ちのぼるスープの香りが、1日を始める合図だったのかもしれない。
ラーメンを持ち帰る、という文化。
夕方には麺がなくなって閉店することもある。でも、常連たちは抜かりない。昔から「持ち帰り」がこの店の定番だ。
かつてはウイスキーや焼酎の空き瓶にスープを詰めてもらっていたという。今でもペットボトルや醤油瓶を持参すれば、熱々をそのまま持って帰れる。
麺は榮大號製麺の特注。生麺での提供だから、家でも店の味がそのまま楽しめる。自分好みにちょっとカスタムしてみるのも、また楽しい。
お家で食べる時は、思う存分自分好みで。オリジナルカスタムを探してみては?
この一杯の先に、町の風景が見えてくる。
派手じゃないし、インスタ映えもしない。けれど、このラーメンを知ることで、高井田という町の空気が少しだけわかる気がする。
工員さんの汗と、店主のこだわりと、常連の朝のルーティンと。そういうものが、どんぶりの中で湯気に変わって、静かにたちのぼっている。